葬祭業からクラフトビールまで、地縁型サービス・インフラ企業「株式会社花安」の革命家、渡辺さんに聞いてみた

葬祭業からクラフトビールまで、地縁型サービス・インフラ企業「株式会社花安」の革命家、渡辺さんに聞いてみた

今回紹介させていただくのは、
新潟は新発田にある葬祭業を営まれている株式会社花安の常務の渡辺さんです。

とあるラーニングツアーに参加させていただいた際に、
渡辺さんと知り合い、講師としてお話されていた渡辺さんが
あまりにも魅力的だったため、取材をお願いさせていただきました。

株式会社花安HP

しばた寺開き

月岡ブルワリー

R:簡単な自己紹介と御社の事業内容についてお聞かせください。
W:株式会社花安は私で16代目にあたり、初代の(花屋)安兵衛さんが安兵衛という屋号で
葬祭関連の商売を始めたことがルーツにあります。
初代は造花事業を営んでおりったと聞いております。今では葬儀以外の仏壇仏具の販売や、墓石、生命保険なども扱う葬儀の総合サポートをしています。
また、少子高齢化など社会構造の変化もありますので、先々を考えて、観光施設の運営や
クラフトビール事業なども行う地縁型サービス・インフラ企業と対外的には表現させていただいています。


R:ご経歴の中にあるMBAについてですが、どのような理由で取得なされたのでしょうか?
W:先程私が16代目とお伝えさせていただきましたが、事業は三代しか続かないといわれている中でうちの祖父が葬祭事業をはじめて父親が2代目で大きくし、3代目の私ががつぶすことになるので、絶対につぶさないように、答えを求めてMBAをとることにしました。行って気づいたこととしては、答えを探しにMBAに行くことは今考えるとナンセンスだということですね(笑)
ただ、この先に何をやっていくのかなど、戦略を立てる上での必要な力、答えを創り出す
ための術を得ることができました。
これまでぼやっとしていたところが、クリアに見えるようになりました。


R:コロナ禍の影響などはあったのでしょうか?
W:業界全般売上は30%ほどは落ちたのではないでしょうか。大規模な葬儀はめっきり減
りましたね。ただ、弊社は早いうちから家族葬を他社に先駆けて行っており、影響は他社よりは少なかったのではないかと思います。それでも苦しかったのですが。
業界全体で会葬が減りましたね、当然、そこに付随する商品などの需要もなくなるわけで、無い無いづくしです。外的な環境の影響もありますが、会場に来て故人を偲ぶということがなくなりましたね。
コロナが開けても今の葬儀のスタイルに慣れてしまったということでこの流れは今後もおそらく続くと考えています。リモートワークで会社に出社する意味が問われたのと、同じようなイメージかも知れませ
んね。業界関係なく、コロナ禍で真に必要な事が問われていますね。


R:国内ですと、先程少し触れていただいた少子高齢化があらゆる産業に影響を及ぼして
おりますが、葬祭業についてはいかがでしょうか?
W:少し観点は異なるかもしれませんが、葬祭業はブラックと言われることがあります。
理由はシンプルで、ヒトの死を止めることはできず、事が起こった際に、すべては死のタイミングに準じて人や業務が動きます。それが夜中であっても早朝であっても関係はありません。その働き方を疑いました。
そういうもんだ、で済ませずにいい方法はないかと模索し、業務を分業化しようと。お客様からすると分業にすることでの一番の不安は分業して代わる代わる担当者に説明しなければいけないことや誰に相談して良いのかがわからなくなること。そのために担当者同士で引継ぎの時間をしっかりと設けたこととITツールで補いました。
素晴らしいITツールでも使えなければ意味がないので、例えばコミュニケーションはLINEで全社で導入しました。LINEを使えない人はほとんどいなかったのでスムーズに導入できました。さらに、PCツールもPCの苦手な人でも簡単に使えるハードルの低くものにしました。
機器の導入に際しても、必要なアプリケーションを入れた状態で配布するなどの配慮をし
ましたね。それをしないと個々でインストールしてもらうまでにに1年かかる、蓋開けてみたら使っていないなども現実的に起こりうるんですよ。


R:地域イベント運営や観光拠点の指定管理、はたまたクラフトビールを立ち上げられた
りと、本業以外にも様々な活動をされていますが、それはどのような背景からなのでしょうか?
W:地域経済が活性しないと、葬祭業も儲からないと考えたんです。だから地域に出ていき、真の地域密着をしようと決めました。それは共生していくことが大事だと。三方良しでなくてはなりません。それは初代の安兵衛さんのルーツが近江商人なのではないかとも言われており、代々受け継がれてきている考え方なのかもしれません。代々住んでいる土地はかなり長細い敷地なのですが、かつて同じ建物に5世帯くらい住んでいたこともあったと聞いております。
目指すは顔の見える企業で、過去の縁がつながって今の縁があり、地域とお客様をつないでいくことが、最後に葬儀につながってくる。お客様の不安の解消をしながら喜んでくださることは何なのかを考えております。その結果、地域商店とお客様ををつなぐ花安四季くらぶが生まれたました。地域商店にもお客様にも弊社にもそれぞれが恩恵を受ける地域加盟店制度です。公共性の高いブランディングを目指していくという考え方で取り組んでおります。その他、しばた寺びらきや観光施設の運営も目的は同様ですね。


R:観光施設についてもう少しお話をお聞かせください
W:地域とお客様をつなぐためには人同士もそうですが製品やモノを介しての交流場所をつくる必要があると考えております。併せて、第三セクターではない本業が別にあっての企業の新発田市の指定管理ですので、できるだけ税金に頼らない運営を目指しています。
民間でやる意味としてできるだけ地元のものを販売し利益を出すことを目指しており、毎年給付金の提示額は減らすようにしてあります。


R:クラフトビールの事業についてもお願いします!
W:観光施設を運営する中で感じたこととしては、利益を出していくには場を提供するだけでは給付金頼りを抜け出せないと思い、何かいい方法はないかと模索しておりました。そんな時にある年のしばた寺びらきで鎌倉の大仏ビールをヒトの煩悩と同じ108本販売してみたところ、即完売したんですよ。売る側は煩悩でいっぱいだったかもしれませんが(笑)
クラフトビールは勝機があるかもしれないと考え、その企画を持ち込んでくれた今の醸造責任者である新保と調査を進めるうちに「観光地」×「レストラン」×「マイクロブルワリー」がポイントということに気が付きました。
そして、日本酒ソムリエである酒屋の息子である新保と、観光施設にいる調理師資格をもつ店長の三宅と話をしているうちに、月岡温泉があるじゃんという話で本当にこの事業はいけるぞと本気の勘違いと勢いからから、月岡ブルワリーが生まれました。
今ではInternational beer cup2021で月岡湯上りエールが銀賞(実質世界一)と2022は月岡IPAが世界一、他の種類もJapan Great Beer Awardでも多数受賞するところまで成長するようになりました。


R:ここだけの話で、これまでにお蔵入りになったアイデアなど、1つばかりお話しいただけないいょうか?
W:お蔵入りというか、黒歴史というか、葬祭業って採用が非常に難しくて、コンサルタ
ントを入れることがあるんです。以前、コンサルを入れた際に、会社のいいところを挙げてみようということになったわけですが、皆、フラストレーションが相当溜まっていたらしく、会社の悪口大会という炎上につながってしまいました。。。
その他でいうと若い人が来ただけで即採用して、会社で不正行為をしていたことに気づかずにいたり、オンラインオフィスで拠点間をつないでみたものの全くうまくいかなかったり、ITツールも入れてみたものの誰も使わない無駄なものになったりと・・・
そんな失敗から、働き方改革の最中、分業制は順調に進み、スモールスタートで最初は1人から始めるなどして徐々にメンバーを増やして軌道に乗りました。


R:本業においても、データサイエンス的な取り組みでしたり、花安四季くらぶなど、一つ一つの取り組みが非常に計算されている印象を受けています。
W:データの活用をなぜするかというと、自分たちの現在地を確認してより効果的な施策を打っていくためですね。シェア率を可視化したり、シェア率が上がっていなくても単価は上がっているのか、細かくデータ管理をすることで次の打ち手が見えてきます。
式場ごとの状況や、販売している商品の中でもあまり出ていないものなどを基にしたプラ
ンお見直し、また、個人別で誰が何が得意かなども分かります。元々数字が好きな坂井というスタッフがいて、ありがたいことに自主的にデータ収集をしてくれていたんですよね。それをベースに、今ではあらゆる部署がデータを基に業務を行ってくれていますね。収集したデータを基にちょっとしたことでも改善を繰り返しています。


R:実際に取り組みの成果はいかがでしょうか?
W:例えば、攻めという点でいうと、チラシがありますが、チラシも弊社のただきれいな自己満足のチラシではなく、費用対効果を見て、どのようなチラシが適切かを分析するようにしています。最近では季節×広告コンテンツの相性なども見えてきました。毎月の顧客獲得コストがどれくらいかは細かく見ています。今後はチラシからWEBにシフトしていく必要があります。


顧客獲得という攻めも会社の業務改善という守りもデータを見ながら意思決定しています。社長は直感型・人情型の判断をするタイプですが、今まではそれでうまくいっていたものの、人数も増加し価値観の多様化もあり、結果としてうまくいっていない部分もでてきてしまって。1/1の直感ではなく、まずは100個アイデアを出して、その中から10個に絞って、さらにそれを3個に絞り、その中から1つを決めていくというスタイルに切り替えました。


R:仕事をする上で大事にされている価値観・考え方についてお教えください!
また、御社の社風や最近事業場で嬉しかったことについてもお話ください!
W:何かをやる時に、「みんなにとっていいか?」を大切にしています。みんなにとって良くないことは長続きしません。みんなにとっていいことで、かつ結果もついてくれば誰も文句は言わないしスタッフも納得してくれます。最近嬉しかったことは部門長や上司が部下のミスを積極的にフォローをしてくれるようになったことですね。以前は会社全体で部下のミスを責める姿勢は全面に出ていましたが、人を責めるということをしてもお互い嫌な気持になるだけで改善効果も短期的で高くないということ恥ずかしながら社長と私が気づいて、それをスタッフに共有していったんですね。そしたらみるみる組織にいい変化が生まれました。

元々のうちの社風って新しいことに取り組む時に社長がトップダウンでものごとを進めて他のスタッフが言うことを聞いて動けばいい時代でしたので、スタッフからのボトムアップアハほぼなかったんですよ。ある時に私が入社してから少し上の先輩と新規性のある取り組みを成功させると社長がほめてくれました。それを機にチャレンジが給与に反映されるように新たに評価制度を導入するようになりました。誰もがみんな良いときもあれば悪いときもある、世界規模、宇宙規模の広い視点で見ながら、スタッフのみんなから様々な事業を創発してほしいという願いもあります。


R:今後の野望についてもお教えください!
W:一般社団法人つなぐらいふの活動にも通じますが、誰もが地域で楽しく生きている環境をつくることです。
葬儀って一度きりで何度もやるものではないので負の解消でマイナスからゼロまでの事業で葬祭業社がプラス部分にも関与していきたい。様々な葬儀をお手伝いさせていただく中で葬儀という誰もがやりたくはない人生で一度きりのイベントで、最善な葬儀にするためには故人がそれまでにどういう人生を送ったかってとても重要と考えています。
生前にどれだけ不安の解消をできるか、どれだけお客様に楽しんでいただけるかを提供していきたいと考えています。そのためには地域において身近な存在で有り続ける必要があります。


R:花安さんを○○業と表現するとしたら、何業になりますでしょうか。
W:地縁型サービス・インフラ企業ですかね。
お客様にとって、「花安という会社があることで家系のアイデンティティを保つことができた。あの会社があって良かった。」そう感じていただける企業を目指して、オンリーワンカンパニーを目指していきたいです。
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(編集後記)
実は渡辺さんには、このインタビュー前にも一度お話をいただいておりましたが、事業の話が盛り上がりすぎて、インタビューできず、そんなハプニングもありました。
今回、お話を改めて伺って、マイナスからプラス、という言葉にすべては集約されている
と感じましたが、なぜ、渡辺さんが様々な事業に取り組まれているか、が少し分かった気がします。
MBAの先輩として、ビジネスの同士として、以後も定期的に情報交換をさせていただきます。
新発田に行かれた際には、是非地ビールをご堪能ください!
(私が行った際は車の運転が有りレモネードにしましたが、レモネードも美味でした!)__