~環境の再生と人の再生を通じてバランスのとれた社会に~専門家ではなく一緒に生きる場づくりの道を選ばれた桐林さんに話を聴いてみた

~環境の再生と人の再生を通じてバランスのとれた社会に~専門家ではなく一緒に生きる場づくりの道を選ばれた桐林さんに話を聴いてみた

桐林さんとの出会いはあるコミュニティで、私がライトニングトークなるものを行わせて頂いたタイミングでした。そのライトニングトークの内容が廃棄アパレル(古着)に関するもので、そこに興味をもってくださり、
桐林さんもまさにアパレルを軸に社会課題の解決にもつながるサービスを検討されていたことから、
オンラインでディスカッションをさせていただくなど、グッと距離が縮まりました。

古着を事業テーマに選んだ理由

R:まずは自己紹介と今行われている、今後進めようとしておられるお取り組みについてお教えください。
リサイクルについてはどのような経緯で事業として取り扱おうとお考えになられたのでしょうか?

K:桐林 千登勢 と言います。メインの仕事としてはマインドフルネスをベースにしたプログラムを企業、個人向けに提供している会社のバックオフィスを担当しています。
これまでも心理学を学んでメンタルクリニックで働いたり、様々な経験を積み、人の内面に関わることを事業化しようとしてきました。それ以外にも紛争解決に関する取り組みを行うNPO、環境課題に取り組む一般社団法人やNPOでの活動を行っています。元々、人権や環境に関心があり、中でも精神的なところへの関心が強いので、今後も取り組み続けると思います。

しかしマインドフルネスや禅の修行のような内面を整えるものは、日常とは離れた場所で実践的な練習が行われることも多く、日常に戻ると元通りになってしまうケースもあり、なかなか社会にいい影響を及ぼせてないのではないかという課題感があります。
ティク・ナット・ハン氏が実践したエンゲージド・ブッディズム(社会参画型仏教)のように、社会課題の中でこれ(マインドフルネス)を活かすべきではないだろうかと思うようになりました。

そこでまずは社会課題を知ろうと、3日に分けて「人権」と「環境」と「企業のこれから」というテーマでイベントを開催したのですが、私自身、登壇いただいた方から得た学びが非常に大きかったです。
そうして学んでいくと幅広い事象が全て繋がっているということに気がつきまして、人の内面(精神面)の支援に環境(資源)に関わることを取り入れて、人と環境の再生を同時に行うことができないかと考えるようになりました。

我々(先進国)の日常生活は地球のどこかでしわ寄せを引き起こしていて、我々が自分自身のことをどれだけ整えようが、日常生活で見える範囲より広い視野で物事を考えない限り現代の課題解決はうまくいかないのではないかとも感じています。徐々に広い視野でのアクションに取り組む企業も増えてきてはいますが、まだまだ十分ではないようなので、私自身もそこに足を踏み入れようと決意しました。
そこでどの分野に関わるか検討し、もっともリサイクルの仕組みが遅れているとされる古着をテーマに選びました。古着は、リユースはそこそこ仕組み化されている状況ですが、リサイクルについては流れに乗せるまでが本当にお金になりづらいんですよね。そこを別のものと組み合わせることで何とかできないかと考えたことが、先程触れさせていただいた人と環境の再生を同時に行うという構想に繋がっています。
昨年2023年は色々と試行錯誤した時期で、そこで自分にできること、できないことが明確になり、今年は自分にできることをより具体的な形にできればと考えています。

R:桐林さんには以前、場作りの講座の情報をいただいたりと、場作りの知見が豊富でいらっしゃるという印象を受けているのですが、元々場作りへの関心は強くお持ちだったのでしょうか?
桐林さんといえばマインドフルネスのイメージも強いのでマインドフルネスとの出会いについてもお教えくださいませ!

K:コミュニティ、場作りには元々関心がありました。心理学と心理技法に興味を持ったのがきっかけで、特にプロセスワークについて学び始めたことが大きく影響しています。自分自身の中で何が起こっているかを知り、その場に居る方にとってのどのような学びにつなげるかといった姿勢をもとにしたプロセスワークは応用範囲が広く、グループワークにおけるファシリテーションにも使えたことから、コミュニティの力を活用することに興味を持ったという経緯があります。マインドフルネスにも繋がりますが、ファシリテーションにおいて場をホールドする上では、自分自身を整えるということがとても重要です。私自身が人生において最も苦しかった時に、自分の思考や感情、感覚に気づいて整えることが重要ということに気づいて行っていたのですが、心理学を学び始めてからそれがマインドフルネスの実践で得やすくなることを知ったため、広める仕事や活動を行うようになりました。

偶然のアフリカ

R:また、2023年にはアフリカにも行くなど様々な場所に精力的に行かれている印象を受けましたが、
その中でも特に印象に残っている場所などを挙げるとするとどこになりますでしょうか?また、桐林さんを動かす原動力が何か?についてもコメントをいただけますと幸いです!

K:古着に関しては、ガーナとチリが世界の古着の墓場として有名だったのですが、アフリカ関連のイベントで知り合った方とのご縁もありアフリカに行くことにしました。
私は特に旅行好きというわけではなく、何かきっかけなどがあれば行くというスタンスでして、何をするのが最大の助けになるのかが分からないため、まずは現地を見てみようと思ったのが理由です。
今回が、人生で初めてのアフリカ行きでした。欧米であれば多少文化の違いはあっても日本での現在の生活の延長上というイメージができるため、そこまで衝撃を受けることはありませんが、アフリカでは色々と衝撃を受けましたね。中でも印象的な点が2つありました。まず1点目は、生活における格差が大きい中で助け合いが機能しているということです。私が滞在した場所は、空港から車で20~30分の場所で、大きなスーパーもあり生活に便利な場所でした。が、メインストリートから1本入るとまったく異なる低所得層の方々が暮らしていました。

聞いた話ですが、彼らは経済的余裕が無いため十分な医療を受けられないように思われがちだけれど、近所で急病人が出ると皆でお金を出しあうそうです。入院するお金を持っていない人に対しては、入院している人達でお金を出し合ったり病室の中に寝る場所を提供したりと、皆で支え合いながら医療を受けているとのこと。制度は整っていませんが、助け合いの機能はうまく働いています。
逆に日本では制度が整っているからこそ、その場にいる人達で臨機応変に対応するという点が弱くなっているかもしれないと感じるようになりました。


2つ目は、呪術のような古い考え方についてです。非科学的と思われるものは忌避されがちな現代ですが、まだまだ呪術の影響は良くも悪くも強く働いているのだそうです。悪い方の影響でいくと日本では犯罪となる行為を呪術師から示唆されるようなこともあるようですが、医療分野では、西洋医学では原因も対処も解明できない症状への効果的な治療となることもあるそうです。
こうした文化や民族による治療は医療人類学として研究されている分野とのことで、私も大変興味を持っています。医療人類学の定義は難しいようですが、西洋的な医療だけではなく代替医療も含め、専門家、家族のような個人的繋がり、文化や民族という観点から病気や健康を見ていこうという考え方です。このような文化や民族における治療的側面も、コミュニティにうまく活用していけると理想的ですね。
できるだけ多くの人が、困難に遭っても回復しながら充実した人生を送れるよう、そしてそのような人類の営みが現存する多くの生物にとって善い地球環境の維持となるよう、社会の価値観を変化させていきたいという想いが私自身の原動力になっています。

専門家ではなく一緒に生きる場づくりへ

R:VUCAにコロナにと、技術の進化だけではなく、変化の大きい時代だとここ数年感じ続けていますが、
桐林さんの目から見て変化をお感じになられる瞬間などはありますでしょうか?
最近の関心事、最近嬉しかったことについてもお教えくださいませ!

K:変化は様々なところで感じています。例えば、廃棄衣料の課題について取り組みたいと話した時、少し前までは何が問題なのか問われることが多かったのですが、ここ最近では説明しなくても共感いただけるようになっているので、社会課題が広く認識されたと思います。
企業に関しても変化を感じていて、研修に求めることに、時代の変化に柔軟に対応できる力をつけたいとか、従業員のWell-beingを向上させたいという意図が増えています。
企業や社会が目指すものが少しずつ変わってきている兆候ではないかと感じています。

最近の関心事については、これまで携わってきた対人支援に、更生保護(罪を犯して刑務所から出てきた方々をどのように社会復帰につなげるか)の分野も関わってきたことです。
過酷な環境や困難な状況から犯罪に繋がることも多く、「被害者」と「加害者」というのは明確には分けられないところもあります。刑務所などから出てきた後に、元の状態に戻ってしまわないよう新しい環境を整えるのはなかなか難しいことです。これまでは専門家的なスキルを身に着けて、専門家として対人支援に関わっていくことを模索していたのですが、本当に必要なことが何かと考え続けることで、一緒に生きる場を創りたいと思うようになってきました。最近嬉しかったことは、私が普段実践している「どれだけ手間をかけずに食事がつくれるか」というスキルが役に立ったことですかね。更生保護の取り組みとして少年少女と一緒に料理を作って食べる日があるのですが、彼らの自活が目的なのですごい料理が作れるようになる必要はなく、むしろあまり人には言えないような手抜き具合が見事にハマりました。まさか喜ばれるようなこととは思ってなかったので嬉しかったです。

R:最後に、2030年がSDGsの一旦のゴールイヤーとされていますが、
2030年をどのような形で迎えられているとハッピーでしょうか?是非、今後の展望も含めて!
また最近生成系AIなどが大きなトレンドになっていますが、AIについてどのようにお感じでしょうか?

K:私自身は、2030年にSDGsのゴール達成とはいかないと思っていますし、ゴールを達成したとしても誰にもなんの問題のない世の中になることもないと思っています。
それでも経済活動、社会、環境は、少しずつ良い方向に向かっているとは感じていて、産業革命以降、極端な方向に進んでいたものがバランスを取り戻す方向に振れ始めているのではないでしょうか。
2030年の理想としては、急激な経済発展が緩和されることで、例えば生活においても健康的な生活が見直された状態かなと思います。そういう視点では、大変だったコロナ禍も生活について見直すいい機会になった方もおられるでしょう。ひとつの出来事を多様な視点でとらえられるようになっているといいですね。
AIについても、私はそれほど脅威には思っていないですし重要視もしていません。行動パターンも含め、人が五感で確認できる表層的な部分はより詳細に分析し応用できるようになると思いますが、内面まではカバーできないと思います。本当に大切なことは、今自分の中で何が起きていて、自分の言動の源が何なのかを見つめ続けることというのは変わらないのではないでしょうか。人の思考や感情は複雑で、本人が納得していても実はそれが本当なのかは分からないくらいです。各自がマインドフルネスを実践するか、そこまでいかなくても意識するようになれば、経済と社会とのバランスがよりとれてくるようになるのではないかと考えています。

私自身の活動の展望としては、古着をリサイクルして製品までもっていくというのは今の段階では難しいので、当初の予定通りまずは仕分けを形にしていく予定です。拠点については目下検討中となります。
最終的な理想形は人と環境の再生を同時に行うことですが、拠点が決まるまでは実施できないことも多いので、2024年は一旦、人の再生に関わるプログラムと環境の再生の活動は別で構築を進めようと決めまして、それぞれ完成し次第、試しにやってみようとしています。
自分のビジョン実現に向けて、小さなステップを着実に進めていきたいですね。