今回は特定非営利活動法人国際環境政策研究所(IRIEP)の梅本さんに話をお聞きしました。
現在、梅本さんは消費者の行動変容を促すための新しい地域情報誌の制作および普及に努めておられます。
そこにいたる経緯なども含めて今回質問をさせていただきました。
IRIEP HP:https://www.iriep.org/
梅本さん:U
REUSED:R
行動変容を促す新しい地域情報誌
R:簡単な自己紹介と現在取り組まれていることについて教えてください。
U:梅本と言います。出身は九州の佐賀県の唐津市になります。農業と漁業の町ですね。少し趣味について触れさせていただきますと天体観測ですかね。中学の時に友人の影響で天体に興味を持ち、高校の入学祝いに親に天体望遠鏡を買ってもらいました。今もその望遠鏡と撮影専用の望遠鏡を持っています。
光学への興味もあって、当時光学機器メーカーのキヤノンに就職が決まり上京しました。
ところが、都会の生活に慣れると違うことをしてみたい、良く言えばキャリアチェンジですね。
いくつか職を変えてしまいました。親からしたら何をやっとるんだあいつは!だったと思います。
キャリアでは、事務機器のフィールドサービス、PHSの基地局設置工事、ISO9000の認証取得にも携わりました。
そして、リユース・リサイクル、いまの国際環境政策研究所のご縁につながります。
現在、事務局の業務と事業の実務全般を担っています。これまで色々な仕事をしてきましたが、
今の仕事がキャリアとしてはもっとも長くなりました。
ISO9000で事務局責任者をした経験は、特に文書作成ではガイドラインやテキストの作成に役立っています。どこで何が役に立つかは分からないものです。キャリア形成に無駄はありません。(強がり)
今の仕事、国際環境政策研究所は特定非営利活動法人なので、特定非営利活動促進法の基本原則を大事にしなくてはなりません。不特定多数のものに寄与する活動を行わなければなりません。これは法で課された義務ですね。私たちは、法で定める特定非営利活動活動の中から6つを掲げておりますが、特に社会教育の推進を図る活動、環境の保全を図る活動に力を入れています。
現在取り組んでいるのは主に3つです。
①消費者を対象とした地域情報誌の制作
②国や国の機関が公表しているデータのチェック
③区市町村へのアプローチ・意見交換
それぞれについて簡単に説明させていただきますと、
①は、消費者が生活の中でいらなくなったものをゴミにしないようにするための冊子です。
これは新しく考え出したものではなく、すでにある主な方法をまとめたものです。
家庭から出されるごみの中にはまだ使えるものや資源として価値のあるものが少なくありません。
これを有効利用することはもちろんのこと、地域の住民、事業者、行政が一体となって、循環社会・経済にしていきたいと考えています。
②は、国や国の機関が収集し、公表しているデータの伝え方に気になる点が見つかったことです。
いまはまだ詳しい話はできませんが、消費者から寄せられる生活に関する相談情報について、マスコミ等が伝える記事の元となるデータが正しく解析されていないとすると国民、事業者、行政、国が誤認、誤解を招く恐れがあります。それは大きな損失を被ることにつながりかねません。無駄かもしれませんが、私たちNPO法人が目的とする不特定多数のものに対して取り組むべきことと思っています。
③の区市町村へのアプローチ・意見交換は、取り組みの①と②に関連しています。
私たちの「環境の保全を図る活動」で取り組んでいるのは資源循環、地域による循環社会、循環経済を考えています。特にゴミをゴミにしないということが重要であるとの考え方にもとづいています。
これは環境省の地域循環共生圏の考え方と同じです。
区市町村が担う廃棄物処理は、区市町村が作る処理計画に従って実行されていますが、遺品整理で大量に出るごみの処理など、住民が求める対応にはまだ届いていないのではないかと考えています。そこで、どう解決していくかの提案として、住民に対する区市町村のホームページの周知の仕方や遺品整理などを適法、適正に行うことを支援する業界団体と一緒になって、働きかけています。すでに10ほどアプローチを行いまして、内1つと面談を実施し、住民からの遺品整理の対応につながりました。行政と事業者がつながることで、住民の要望により適切に対応をすることができるようになるのではないかと考えています。
R:今回の情報誌をつくろうとお考えになられたのはどのようなきっかけだったのでしょうか?
相当な情報量で作成時にはご苦労もあったかと思いますが、そのあたりいかがでしょうか?
U:きっかけはいくつもありましたね。SDGsの目標12に対してできることは何か、ゴミを減らすためには何ができるか、循環社会にうるためのカギは何か。サーキュラーエコノミー(以下CE)の考え方を日本で広めることができるか。はたまた気候変動や、プラスチックの自然界への流出問題など、様々な課題があります。
その中でも消費者が生活の中で自然にできることはないかと考えました。そこで区市町村が発行しているゴミの出し方冊子に注目しました。以前に環境省の助成事業の公募に世田谷区と一緒に応募したことがあって、残念ながら不採択でしたが、自治体の取り組みついていろんな気付きがありました。
行政が作成しているごみの出し方冊子は、ゴミの出し方が分かりやすく示されています。
生活における最も重要な冊子であり、適正なゴミ出しに市民を導いています。
一方、これまではこれでよかったのですがこのルールによって、いらなくなったものが簡単にごみとして捨てられるようになったといえます。ある自治体では小型家電を燃えるごみで出してもよいルールになっています。
また、消費者によってはいらなくなったもの誰かにあげたり、売ったりするなど、ごみにしない行動を取ってはいるものの一部に限られていると思います。消費者によっては、いらなくなったもの誰かにあげたりするなど、ゴミにしない行動をとってはいるものの、まだまだ一部で、個人間取引を行うことができるフリマアプリやジモティーなどのサービスも増えてきてはいますが、使い方が分からない、めんどくさいなどの理由でゴミにしているケースが少なくないと見ています。
地域に目を向けてみると、リユース・リサイクルショップやリペア、たとえば、かけはぎの技術で衣類に開いた穴を見事に直してくれる事業者もいます。
また、福祉団体などに不要品などを寄附している事業者がいます。
地域の事業者をまとめることでもっと循環社会を発展させることができるのではないか、ゴミの出し方ではなくゴミを出さない仕方が今後は大事になるのではないか、
それを無理やりではなく自然に習慣が変わる仕掛けを行うことができればと、それが情報誌をつくるきっかけになりますね。
最初に頭を悩ませたのが、どのような情報を掲載するかという点と全体の構成です。構成の悩みは草稿ができたあともずっと続きました。掲載したい情報をすべて盛り込んでみたところ、当初のページ数は100ページを超えました。地域情報誌の域を超えてしまっていますよね(笑)
ブラッシュアップを重ねるうちに最終的には既存の地域情報誌のような中綴じ型のスタイルになりました。
横浜市版の制作にあたっては、自分が横浜市民であり環境事業推進委員として環境事業推進委員連絡協議会の年に数回の会合に参加していることや、横浜市には資源循環局があり、そこを訪れての情報収集、電話での情報収集、環境に関する様々なイベントにも参加しての情報収集など、消費者に伝える情報の正確性には細心の注意を払いました。最終草稿ができた時点で法的な問題はないか、弁護士によるリーガルチェックを行いました。
IRIEPの会員や関係者の支援者を受けて、構想から約2年、2023年12月に横浜市版を発行することができました。
エコプロとリペアエコノミー
R:2022年、2023年と続けてエコプロに出展されていますが、出展されていかがでしたか?
情報誌に関するこれまでの反応はいかがでしたでしょうか。
その他、ここ最近の環境に関する動き等についてお感じになられる点などおありでしょうか?
U:これはチャレンジでした。エコプロに限らず展示会への出展は初めてでしたので不安と緊張の連続でしたね。幸いにもIRIEPの会員のNPO法人RUMアライアンスさんが一緒に出展することとなり気持ち的には楽になりました。2022年はとにかく何か出そう、自分たちの活動をアピールしようと気負っていましたので来場者との交流にゆとりがなかったように思います。反省もありますが、来場者の中で社会学習として訪れていた中学生との対話の中で展示物や見せ方より、自分たちが何をしているかをしっかりと伝えることの重要性などを勉強させてもらいました。
2023年は発行したばかりの地域情報誌横浜市版をメイン展示物にし、タペストリーも昨年より一回り大きくして臨みました。結果としてブースに立ち寄る方が前回より増えましたね。
メイン展示物の情報誌は、ブースを訪れ方がこれは面白いと高評価してくださいました。
大手の事務機器メーカーの元役員さんからは勉強のためにもう1冊いただけないかと仰ってくださったり、行政の職員、国の機関の方も持って帰えられました。皆さん関心をかなり持ってくださっているということが分かり、地域情報誌(ゴミにしない方法)のポテンシャルを大いに感じる機会となりましたね。
エコプロという点でいうと、エコプロ出展後に中学生の企業訪問学習の依頼が来ました。中学生にキャリア教育、SDGsをテーマとした話をするという機会を得ました。
エコプロ以上に伝えるこということについて意識させられる時間でした。
ここ最近の環境に関する動きで感じていることは、国際機関や国同士が集まって決めたこと、特に条約や協定も一国の利害や安全保障上等の立場から簡単に反故にされたり、形骸化されてしまうことです。戦争や紛争が起きると気候変動や海洋プラスチック問題よりも自国の資源の確保、食料の確保、安全保障などに傾いてしまうことです。いまはまさに各国が世界規模の環境問題に取り組むことよりも自国の経済や安全保障を優先する事態になってしまったことに危惧しています。
R:現在の梅本さんの関心事について教えてください!
印象に残ったエピソードなどもあれば重ねてコメントをいただけますと幸いです。
U:関心事としては修理ですね。不要品をごみにしないことにつながることですが、日本はまだまだ使い捨てが多いと感じています。家電製品について、今回発行した横浜市版に掲載しましたが日本で販売されている家電製品の部品の保有期間は5年から9年です。これは法律で定めているのではなく、メーカーが集まる業界団体が独自に定めている期間です。もちろんメーカーによっては期間以上に保有しているところもあります。修理は、製品を長く使うことのできるサーキュラーエコノミーの行動の一つです。
エピソードをひとつお話すると、10年以上使っている自宅のエアコンの冷房の効きが悪くなったとき、地元の家電修理業者にきてもらいました。その場では修理ができないと言われて新品を勧められ、見積もりをしてもらったところ結構な金額でした。僕は直すというマインドをもっており、修理をすることに決めました。メーカーに問い合わせると故障の原因となっているであろう制御基板の在庫があることが分かり平日妻に買いに行ってもらいました。さっそく基板を確認して自分で交換をすると正常に作動するようになりました。
今日まで5年以上経過していますが、問題なく動いています。費用も部品代の6,000円で済みました。
僕のケースはまれで、多くの場合、買い替えを選択したと思います。家電の買い替えを否定しているわけではなく、制度的にもっと修理する機会を増やすことができれば廃棄せずに製品の寿命を延ばすことができると思うのです。日本の製品は品質の高さが売りであり、故障箇所を治すだけでまだまだ十分に使えるようになります。他にも、BDレコーダーや8ミリレコーダーを直したこともあります。壊れたら直そうというマインドが大事です。
たった一度の故障で新品に変えるのはもったいないことです。環境問題や循環社会を考えたとき長く使うことの方がよい面がたくさんあると思います。これは循環型社会形成推進基本法の理念、目的と同じです。いまのところ循環法の目的に沿った制度はまだ出てきてはいないかと思います。その点、2020年にCEアクションプラン(Circular Economy Action Plan)を発表した欧州には政策的な強い決断を感じますね。
R:今後IRIEPが担うべきパートはどのようになってきそうでしょうか。
また、2030年がSDGsのゴールイヤーとも言われておりますが、どのような状態で迎えられるとハッピーでしょうか。
U:CEでいうと、使用からリサイクルの領域が我々の担うことができるパートと捉えています。
消費者の視点から世の中の役に立つことを提案し、あるいは行うことが使命です。
地域情報誌の横浜市版を発行することができたので、他の区市町村へ広げていきたいと思っています。
循環型社会の構築のためには消費者がもっとも重要なファクターであり、消費者と地域に根ざした事業者をつないでいく、消費者の生活は多様ですから、不要なものをいかにゴミにしない流れをつくれるか。行政もまた重要なファクターですね。
NPO法人の活動では目標12つくる責任、つかう責任、11住み続けられるまちづくり、自分たち1人ではできないので、17のパートナーシップも活用して作り上げるというサイクルが地域においてできているとハッピーですね。結果的に目標13の気候変動に具体的な対策を、につながっているとさらに超ハッピーです。
それが今回制作した前例にない地域情報誌に秘めた課題解決の鍵、手段ではないかと考えています。
ビジョンは大きく、ただし行動は小さなことからコツコツと。IRIEPの使命ですね。